政経倶楽部【東京】第92回例会 8/2木(朝食会)
日時:2012年8月2日 開会:~ (開場:)会場:ルポール麹町 東京都千代田区平河町2-4-3 TEL03-3265-5365 有楽町線「麹町駅」 1番出口より徒歩3分. 有楽町線・半蔵門線 「永田町駅」 5番出口より徒歩5分.
超円高時代を生き抜く~豊かな地域を中小企業経営者から~
■講演 齋藤弘氏
前・山形県知事 国際教養大学客員教授
「超円高時代を生き抜く~豊かな地域を中小企業経営者から~」
【略歴】1957年山形県生まれ。東京外語大学卒。ジョンズ・ホプキンス大学院(SAIS)修了。日本銀行、国際通貨基金(IMF)、山形銀行等勤務を経て2004年~2009年山形県知事。県政史上初の県債残高の減少を実現、記者会見の毎日実施(全国初)等で、全国情報公開ランキングを47位から4位に躍進させる等、改革派知事として活躍。2010年、日本創新党設立に参画。2011年より国際教養大学客員教授。全国自治体病院協議会顧問等。
主な著書に「目からウロコの円高経済学」ワニブックス(2012年2月刊)。
●「日本はこれからも世界の一流国として存在していきたいのですか?」
2週間前ワシントンを訪れた。米国や世界各国が日本に対してどのような思いを抱いているのか、また、どういう考え方で今後の世界や日本を見ていくべきかを得るために、定点観測的に渡米し意見交換を重ねている。
今回、1年半ぶりに再会したアーミテージ氏に、冒頭いきなりこう聞かれた。「日本はこれからも世界の一流国として存在していきたいのですか?」。
「勿論です」と私は答えた。「一流国」の定義は個々にあると思うが、まずは、日本の現状認識をいくつかのデータから共有しておきたい。
【1】 日本の経済的現状
・日本のGDP(国内総生産)は大局観として1990年から現在までの20余年間おおむね横ばいだ。
・日本の政治家で経済をほんとうに理解している政治家は少ない。例えば、「日本のGDPは?」の問いに「500兆弱円」と即答できる政治家は限られているだろう。
・日本の国際社会での位置付けを見る卑近な例として東京モーターショーがある。同モーターショーでは、1955年当時は入場者数50万人、展示車数250台。ピーク時80年代半ばは200万人の来場者に1000台の出展。現在はまた50万人250台。55年以上前と同じ状況、「いってこい」の姿だ。
・経済活性化の最大の足枷は、少子高齢化、と多くが言う。しかし、真に問題なのは、少子高齢化ではなく、生産年齢人口(15歳~64歳)減少。
・財政改革の基本は「入りを量りて出るを制す」。「入」が伸び悩む一方、「出」が現金支給政策の煽りもあって、赤字国債は財政収入の半分以上を占める状況。
・日本の国債依存度は極端に高くなっており、世界的に見ても、GDPに対する公的債務(借金)の割合は200%近くと、他の先進国比、飛びぬけて高い。
・しかしながら、我が国は、ギリシャやスペインと同様の状況、すなわち当該国への信頼性の揺らぎから市場での国際価値が暴落している、といった状況には陥っていない。
・これは、政府部門の赤字に対し、高い個人貯蓄率に支えられ、家計部門が黒字を維持し、日本国全体では黒字を続けている、という実態のおかげだ。
・だがこの国全体での黒字という状況も、あと1~6年でゼロになる。こうなると市場の見方がどうなるかは保証の限りではない。
・また、我が国が発行する、国債の約半分以上が、郵便貯金の7~8割が国債を買うお金に向かっていることなどから、国内部門で保有されている。これも、我が国が「ギリシャ化」していない背景の一つと指摘されている。
・しかしながら、海外勢の力は侮れない。なぜならば、現物国債の保有はそうであっても、先物や先物オプションの半分以上は外国人が買っている、という事実があり、そうした面からの現物国債市場への影響は無視できないからだ。「日本人が国内で消化しているから大丈夫」という理屈はあてはまらない。
●直ちにできる3つの解決策
① 所得の配分~高齢者優遇政策から現役世代に手厚い政策へ
30年後、日本人口は現在1億2000万人から8500万人、生産年齢人口(15歳~64歳)は8500万人から5000万人、75歳の高齢者は1000万人から2300万人になる。少子化対策は重要であり継続して取り組む必要があるが、その効果発現を待つのではなく、直ちに生産年齢人口を増やす政策が求められている。
高齢者も健康で、意欲さえあればこれまで培ってきた技術力やネットワークを駆使して社会貢献していただきたい。
他方、マクロ経済的に見れば、例えば個人消費の増加を促すのであれば、消費傾向の高い若者へより所得が回るような政策が望ましい。
例えば、100万円を雇用延長した高齢者5名に20万ずつ配るより、消費傾向が高い20代女性20人に5万円ずつ配ったほうが個人消費ははるかに伸びるはずであり、マクロ経済的には効果的だ。このあたりが政策的に難しいところ。生き甲斐ある高齢化社会を支える政策の一方で経済の活性化も重要だ。その折々の政治判断が肝要だ。
② 女性の労働力率の活用
女性が社会進出すればするほど、出生率は高まり、子供の数は増える。これは、北欧やフランスで実証済み。アンケートでは、75%の女性が「経済的困難」を理由に第二子出産を持てないと回答。女性の社会進出は経済的不安を払拭する、そしてその社会進出を可能ならしめるような社会的な環境整備が急がれる。例えば病院勤務の女性のためには24時間体制の育児所等整って初めて、社会進出も成し遂げられる、といった具合。
ちなみに山形県は女性の労働力率が高い。三世代同居率が高いのがその理由だ。小学生が帰宅した時、じいちゃんばあちゃんが迎え、夕方に、父ちゃん母ちゃんが帰宅するという家が多い。したがって、県民一人あたりの所得は高くなくとも、世帯所得はそれなりの水準。みな支え合って生活している。
③ 外国人観光客の誘致
外国人観光客を積極的に招くことは経済的に意味がある。日本人一人あたりの旅行費用は平均5万円程度なのに対して、外国人は約18万円使う。外国人観光客を1人呼ぶだけで経済効果は3倍以上ということだ。そのためには、名所旧跡めぐりの「点」的移動ではなく、地域全体を楽しく移動できるよう、魅力的な街づくりが重要だ。単に「観光」ではなく敢えて「観光産業」と呼ぶ所以。
【2】東日本大震災がもたらしたもの~「絆」と「トモダチ作戦」
大震災で、日本人は絆の強さ、日本人としての誇りをあらためて意識できた。また、鳩山政権下で信頼を失った日米関係は、期せずして大震災復旧支援のための米国の「トモダチ作戦」で修復できた、とワシントンでアメリカ人の多くが語っている。米国は震災直後2万人以上を被災地に送り込んで助けてくれた。ちなみに中国は数十名だったのだから。
●リスク管理は「転ばぬ先の杖」で
予防的観点には2つの考え方がある。一つは100%完璧に起こらないようにすること。もう一つは、起こりうることを前提に、起こった時に備えて損失を最小化する準備をしておくという考え方だ。原発事故は前者でありたい。しかし現実起こり得る。日本語には「転ばぬ先の杖」という良い言葉がある。これは災害やリスク管理一般に通じる。起こってから初めて対応するのと、起こりうることとして事前に準備しておくのでは、時間とコストで多くの違いがある。
予防的観点の大切さの所以だ。
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